vol-331
各界から長崎県同友会会員へ向けた熱きメッセージ
2025年の長崎県経済の展望
―実感を伴う景気回復に向けて―
長崎県中小企業家同友会の皆様には、新しいお札の発行をはじめ、日本銀行の業務運営に多大なるご理解とご協力を賜りまして、心より感謝申し上げます。
2024年、日本経済は「物価と賃金は変わらない」という、20年以上も続いてきた経済状況から、「物価」、「賃金」、「金利」が動き始めた1年となりました。近年の物価上昇は、輸入物価の高騰を契機に始まりましたが、それが国内の賃金上昇へ波及し、物価との循環的な上昇が見込める状況となりました。また、これを受け、日本銀行では、昨年3月、2007年以来となる政策金利の引き上げを行い、その後、7月にも再度の引き上げを実施したところです。
もちろん物価等の上昇は、消費者や企業にとって支出の増加要因となります。特に、2024年は、物価や賃金の上昇が企業収益の増加や個人の所得増加を起点としたものでは必ずしもなかったため、企業や消費者が先行的に費用負担を求められる形となりました。もっとも、長期にわたり失われていた「物価」、「賃金」、「金利」の変動がようやく回復し始めたことで、今後は、「物価と賃金が共に緩やかに上昇していく」経済に復していくことが期待されます。
長崎県の景気は、緩やかな回復が続いています。2024年は、百年に一度の大変革と言われるJR長崎駅前の再開発や、当地進出企業の生産設備の増強、周辺居住施設の開発などから、年前半を設備投資や住宅投資が牽引し、後半を観光や個人消費が引き継ぐかたちとなりました。また、企業の生産活動も電子部品・デバイスや造船関連を中心に増加し、収益環境も良好でした。
こうした流れを引き継ぎ、2025年を実感の伴う景気回復の年とするためには、景気の回復局面を捉えて企業の収益力強化を進め、それによって個人の実質的な所得環境を改善させていくことが必要です。また、人口減少が進むなかで、人材の希少価値はこれまで以上に高まっています。収益確保のためには、省人化投資を一層進め、生産コストを引き下げるとともに、人的リソースを充てるべき業務とそれ以外を選別し、不採算分野の見直しを考え始める時期となるかもしれません。
こうした企業の自己変革の取り組みを進めるにあたっては、他社や経済団体、金融機関等との情報交換のほか、企業の取り組みを支援する各種団体等からの助言や支援、行政等による資金面のサポートなどを積極的に活用していくことも有用と考えられます。
こうしたことを通じて2025年が実感を伴う景気回復の一年となり、皆様の飛躍の年となることを強く期待しています。

日本銀行 長崎支店 支店長
伊藤 真
1998年3月 慶應義塾大学法学部卒業、同年4月 日本銀行入行。 欧州中央銀行への出向、決済機構局企画役、金融機構局企画役、システム情報局日銀ネット構築運行課長、政策委員会室法務課長、政策委員会室総務課長を経て、2024年7月から長崎支店長。
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